事例2

X(76歳)は、すでに配偶者を亡くし、現在は自分と共に統合失調症を抱えて自活できない長女Bとの二人暮らしを続けています。Xの保有資産(住宅不動産や預貯金等)により、自分と長女Bの生計については現時点では心配することはありません。しかし、自身の健康が衰え、特に自分がこの世を去った後の長女Bの生活の将来に対する不安は膨らむ一方です。

Xの望みは、自分がいる間に、資産の管理と長女Bの未来について十分に配慮し、長男Aとその家族に過度の負担をかけないようにしたいと考えています。そのために、彼は家族信託の導入を検討しています。

Xの家族構成は、長男A、長女B、二女Cの三人兄弟であり、現在、Xは統合失調症を患っている長女Bと二人で生活しています。一方、長男Aは結婚しており、Xの家の近くに4人家族で暮らしています。また、二女Cは外国人と結婚し、永住権を取得したため、海外に住んでいます。

このような場合、例えば次のような信託のご提案が考えられます。
最初に、Xは司法書士Wと共に自身をBの成年後見人に指定します。これは、もしXが突然病気になったり、亡くなったとしても、Bの生活が続けられるようにするためです。
次に、遺言と信託の設定について考えます。遺言と信託は、同じ目的である「財産の管理・継承」を達成するための異なる法的手段です。
Xは公正証書で遺言を作成しました。その遺言では、AとCに金融資産を相続させることにします。
一方、家などの財産を信託財産と指定します。信託契約では、信託受託者をA、当初受益者をX、二次受益者をBと設定します。これは、Aが信託財産をBのために管理し、必要に応じてその財産を提供するように指定するものです。
最後に、Bが亡くなった際には信託を終了し、残った財産をAの家族に帰属させることとします。これも信託の特性の一部で、特定の事象が発生した際の財産の取り扱いを事前に定めることができます。

このように家族信託を設定することで、自立できない長女Bの生活を保護し、長男Aの負担を軽減しつつ、支援の体制を整えることができました。また、Xが亡くなった時には、遺言執行者として司法書士Wが遺産の整理を行い、相続人である長男Aと次女Cに相続財産を渡します。さらに、信託財産となる遺産についても、長女Bの代わりに財産を管理する長男Aに引き渡されます。

また、長女Bが所有権として財産を受け取らなかった理由は、長女Bが遺言を作成する能力がないため、彼女が亡くなった後、Xから引き継いだ遺産は、法定相続人である長男Aと次女Cとの遺産分割協議が必要となるからです。これにより、海外に住む次女Cと遺産を分割する手間が生じます。また、長男Aが長女Bに対して多くの貢献をしていることを考慮した配分方法を、Xが決める事ができます。